2014年06月30日

第43回「スマホを見ながらの事故」

1 質問
  「先日、スマホを見ながら歩いていたら自転車に衝突しました。
   腕の骨を折る事故でした。
   自転車を運転していた人に治療費を請求したら、相手は『あなたがスマホを見て歩いていて急に立ち止まるのは、あなたの不注意でしょ。』と、逆に自転車の修理費を請求されました。
   やはり、私が悪いのでしょうか?
   修理費を払わなくてはならないでしょうか?」

2 本件では、交通事故における過失相殺・過失割合が問題になります。
  交通事故における過失割合は、第33回「交通事故について」でも述べました。
  その時は、「交通事故における過失割合は、事故態様によって、ある程度類型化されている」というお話をしました。
  そして、その類型化にあてはめて、過失割合のベースをお伝えしました。

3 ただし、今回は、そうではありません。
  この類型化というのは、「歩行者と自動車」「自動車同士」「バイクと自動車」「自転車と自動車」などについては、なされているのですが、「歩行者と自転車」については、なされていません。
  何故かと言うと、双方が、必ずしも道交法上のルールを熟知しているとは言えず、道交法に従った通行をしていない場合も多いからです。
  自転車については、自動車や原動機付自転車などと異なり、免許が要らず、誰でも自由に乗ることが出来るため、法的規制について、あまり意識されていません。
  また、歩行者についても同様で、法的規制について、あまり意識されていません。
  このような状況で、「歩行者と自転車の事故」を「歩行者と自動車の事故」と同様に扱ってよいのか疑問がありますし、逆に、自転車の責任を軽くし過ぎるのも疑問が残ります。

4 では、今回のような「歩行者と自転車の事故」について、過失割合をどのように考えるかというと、過去の裁判例などを参考にして、ケースバイケースで考えます。
  今回は、「スマホを見ながら歩いていたところ、自転車に衝突した」ということは分かりますが、それ以外の詳しい事情が分からないので、正確なことは言えませんが、歩行者の前方不注視の事案ということは言えるのかもしれません。
  似たような事案で「傘を低く前方に出してさし、前方を見ることができない状態で道路を歩行していた歩行者」に3割の過失を認めた事案があります。
  ただ、これも「傘を低く前方に出してさし、前方を見ることが出来ない状態」だった事案が全て3割の過失があるというわけではありません。
  今回も正面衝突だったのか、横からの衝突だったのかでも違うことになります。
  少なくとも、いくらかの過失はあると思います。

5 そして、治療費、修理費それぞれについて、双方の過失割合によって処理することになります。
  治療費については、自転車運転者に対して、その過失割合分を請求し、修理代については、質問者の方の過失割合分を自転車運転者に支払うことになります。
  といっても、現実には、このようにすることは煩雑なので、差し引き計算・相殺をして、差額をどちらかが払うことになります。

6 最近は、自転車の通行ルールも変わりました。
  自転車と歩行者の事故が増えてきたために、自転車の通行マナーなどが問題となってきました。
  このような状況から考えると、自転車の規制を厳しくし、過失割合の類型化もなされてくるかもしれません。
  ただ、個人的には、今の道路状況では、自転車が非常に通行しにくくなっていて、自転車の通行ルールだけを厳しくすることには疑問を感じています。
  道路状況の整備を早急になされるべきです。


  交通事故に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
  http://jwing-lawoffice.com
  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407

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2014年06月28日

第42回「借用証について」

1 質問
  「先日、某知事が、押印や利息の定めなどがない簡単な借用証を、お金を借りた証拠として提示しました。
   あのような借用証は、法的には有効なのでしょうか?」

2 まず、お金の貸し借りの契約がどのようなものか、ご説明します。
  お金の貸し借りの契約は、法律用語で、「金銭消費貸借契約」といいます。
  金銭消費貸借契約は、
  ①「お金を貸しましょう。借りましょう。」という合意と
  ②お金の受け渡し
  の二つがあれば成立ちます。正確には、返済期限の合意というのも必要ですが、とりあえずここでは措いておきます。
  金銭消費貸借契約というのは、このように①返還合意と②金銭の授受で成立し、借用証などの書面が必須というわけではありません。
  このように書面などがなくても成立する契約は、第5回「契約について」でも述べたように、「不要式契約」といいます。

3 よって、「借用証が法的に有効か否か」というのは、少しピントがずれています。正確には、「この借用証によって、金銭消費貸借契約があったと推認できるか否か」と言うべきです。
  どのような点がポイントになってくるかというと、「経験則」に照らして妥当か否かという点です。
  皆、社会生活をしている上で、「こういう場合は、こういう行動を取るのが自然」という「経験則」をお持ちだと思います。その「経験則」に照らして考えます。
  今回のように、非常に高額な金銭を借りる場合、「通常の人」だったら、どう行動するでしょうか?
  「通常の人」は、きっちり細かく決めないと、怖くて借りられないはずです。
  利息の有無、利率、返済期限などをしっかり定めるなど、「きっちりしたもの」を作るはずです。
  今回のような借用証は、「通常ではありえない」、それが経験則に照らした結果です。

4 「実印が押されていなかった」という点ですが、「実印が押されていたから契約成立」とか「実印が押されていないから契約不成立」というわけではありません。
  ただ、「実印」というのは、証拠価値上、重要な意味があります。
  実印が押された文書というのは、印鑑登録された人によって作成されたと推定されます。認印では、こうした効力はありません。
  どうしてこういう効力があるかというと、日本が「はんこ社会」だからです。実印は、「非常に慎重に扱い、簡単に他人に預けたりはしない」そういう経験則があるから、実印が押された文書というのは、その人自身が作ったというふうに推定されるのです。
  だから、実印が押されているにも拘らず、自分で作っていないというためには、実印が盗まれた事実などを積極的に立証していかないといけません。

5 実印は、大事にしないといけません。
  あと改竄を防ぐというのも大事です。
  今回、借入金額のところがスカスカになっていましたが、あれでは改竄が容易になってしまいます。
  数字の前に¥マーク、数字の後ろに横棒を付けるなどしないと、いくらでも数字を付け加えることが出来てしまいます。
  今回、そのようになっていなかったということは、改竄などありえない、つまりは・・・
  これ以上はやめておきますが、政治とカネの問題は、我々国民もしっかり監視しないといけません。


  借用証など貸金に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
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第41回「身近な法律問題」

1 質問
  「都内で一人暮らしをしている25歳の女性ですが、最近、勤務帰りに後ろに付いてくる人の気配を感じます。
   私はコンビニの店員で人と接する機会が多く、その人はおそらくお店に来るお客さんだと思います。
   このような場合は、どうすればいいのでしょうか?」

2 その人は、ストーカーである可能性があります。
  ストーカーに関しては、第36回でも述べたように、「ストーカー規制法」という法律があります。
  ストーカー規制法は、被害者の方が警察に相談に行くと、警察署長などが、加害者に対し「警告」をすることなどを定めた法律です。
  
3 今回の場合は、警察はおそらく相談には乗ってくれると思いますが、それ以上の行動は取ってくれないと思います。
  加害者の特定や証拠などが不十分であるとして、「警告」などの具体的な行動は取ってくれないでしょう。

4 まず、出来るだけ一人で帰らないことです。
  おそらく今は、「勤務帰り」だけを狙っていると思われます。
  そうであれば、コンビニの他の店員と一緒に帰るなどすれば、その人も付いて行きにくくなると思います。
  また、今後警察に具体的な行動を取ってもらうために、他の店員などと協力して、加害者を特定することです。
  具体的な氏名や住所まで分からなくても、見たらすぐ分かるようにしておくべきです。
  あと、これは難しいかもしれませんが、「拒否の意思表示」を明確にしておくことです。ご自身で行うのではなく、他の店員などから言ってもらうことは可能かもしれません。

5 質問
  「自宅近所の駐車場に車を止めていますが、最近、車の側面に長いキズがついていたので修正しました。
   しかし、また同じようなキズがついたので、しばらく放置していたら、今度は、ナンバープレートを黒いペンキのようなもので塗りつぶされていました。
   さすがにこれは困るので、シンナーで処理していたところ、にやにやしている男がこっちを向いていました。
   おそらくこの男が犯人だと思いますが、証拠がありません。
   このような場合、どうすればいいのでしょうか?」

6 まず、車に故意にキズを付けたりする行為は、「器物損壊罪」という犯罪に当たりますので、警察に相談してください。
  ただし、質問者の方もおっしゃったように、証拠が不十分であると思われますので、すぐに犯人が捕まるということはないと思われます。
  また、警察がずっとその駐車場を見張ってくれるということもありません。
  警察による防犯カメラの設置というのも、捜査方法に問題があり、できないでしょう。
  駐車場管理者が防犯カメラを設置していれば証拠が残っているかもしれませんが、なければ難しいです。
  先ほども述べたように、警察の行動には限界がありますから、地域の方々が連絡を取り合って、巡回活動をするということが必要なのかもしれません。

  
  悩んでないで、まずはご相談を。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 18:16| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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