2014年06月25日

第37回「子どもの取り違えについて」

1 質問
  「先日公開された映画で、子どもの取り違えについて扱っていました。
   子どもの取り違えの場合の慰謝料や罪について、教えてください。」

2 子どもの取り違えというのは、現在では、ほとんどないと思われますが、過去には、度々起きていたようです。
  その場合は、病院の責任が問題となります。
  わが子を育てる権利、実親に育ててもらう権利を侵害するものとして不法行為責任が発生します。
  また、病院と両親との間には、病院において、母親が胎児を安全に分娩することを助け、生まれた新生児を看護することを内容とする分娩助産契約が締結されると考えられます。
  そして、この分娩助産契約は、出産した新生児を他の新生児を取り違えることなく、その両親に引き渡すという債務を含むので、取り違えをしてしまった場合には、債務不履行責任が発生します。

3 実の親子であると信じて生活してきたにも拘らず、それが根底から覆された場合の精神的苦痛は計り知れないものがあります。
  過去の裁判例では、数百万から1000万円を超える慰謝料が認められたことがありました。

4 時効について。
  不法行為については、損害及び加害者を知ってから3年の時効期間が定められています。また、行為の時から20年という除斥期間というものがあります。
  除斥期間というのは、時効と同様に、期間が経過すると権利が消滅してしまう制度です。
  したがって、3年の時効期間が経過していなくても、行為の時から20年経過していると、除斥期間によって、不法行為責任を追及することはできなくなります。
  不法行為責任については、20年の経過で責任を問えなくなりますが、債務不履行に基づく損害賠償請求は、認められる可能性があります。
  債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効期間は、「権利を行使することができる時」から10年と定められています。
  数字だけを見ると債務不履行の方が不利なようにも見えますが、この「権利を行使することができる時」、つまり、時効期間の起算点の捉え方によって、債務不履行のほうが有利となります。
  東京高裁の裁判例では、子どもの取り違えというのは、外観上非常に分かりにくく、取り違えが起きた時点では、権利の行使は現実的に期待できず、その時点では時効は進行しないとしました。そして、血液型の矛盾が判明した時点で、権利の行使が現実的に期待できたとして、その時から時効が進行するとしました。
  結果として、取り違えが起きてから約45年経過していた事案において、時効は成立していないとして、請求が認められました。

5 取り違えを知ったときの衝撃は、計り知れません。
  お金で解決できればまだしも、現実には、その後の生活があります。
  単純に子どもを交換して「はい終わり」というわけにはいかないでしょう。

6 看護師が、わざと取り違えていた場合には、未成年者誘拐罪になる可能性があります。
  ただし、未成年者誘拐罪の時効は5年なので、それを経過してしまえば、罪には問われません。


  慰謝料請求に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
  http://jwing-lawoffice.com
  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407


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2014年06月24日

第36回「ストーカー規制法について」

1 質問
  「先日、ストーカーによる殺人事件が起きました。
   被害者の女性は、警察にも相談に行っていたようですが、防ぐことはできなかったのか、と残念でなりません。
   ストーカーに関する規制はどうなっているのでしょうか?」

2 ストーカー規制法という法律があります。
  これは、「桶川ストーカー殺人事件」を契機として、平成12年に制定された法律です。
  それまでは、ストーカー行為について、軽犯罪法や迷惑防止条例で取り締まるか、傷害や脅迫などに発展してから刑事事件として処理するしかありませんでしたが、被害を未然に防ごうということで、ストーカー規制法が制定されました。

3 ストーカー規制法は、二つのことを規制対象としています。
  一つは「つきまとい等」です。
  「つきまとい等」とは、
  特定の者に対する恋愛感情その他の好意感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、その特定の者又はその家族などに対して行う、次の8つの行為をいいます。
  一つ目が、つきまとい・待ち伏せ・押しかけ
  二つ目が、監視していると告げる行為
  三つ目が、面会・交際の要求
  四つ目が、乱暴な言動
  五つ目が、無言電話、連続した電話、ファックス、電子メール
  六つ目が、汚物などの送付
  七つ目が、名誉を傷つける
  八つ目が、性的羞恥心の侵害
  です。
  五つ目の、電子メールというのは、以前は、規制対象に含まれていませんでしたが、今回の改正によって追加されました。
  そして、ストーカー規制法が規制対象としている、もう一つが「ストーカー行為」です。
  「ストーカー行為」とは、
  同一の者に対し、「つきまとい等」を繰り返して行うことをいいます。
  ただし、「つきまとい等」のうち、先ほどの一つ目から四つ目については、身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われた場合に限ります。

4 これらの行為があった場合の対処。
  まず、「つきまとい等」があった場合に、被害者が警察署に相談に行くと、警察署長などが加害者に対して「警告」を行います。
  この「警告」は文書でなされるのが原則ですが、緊急を要する場合などは「口頭」でなされることになります。
  「警告」したにもかかわらず、さらに加害者が「つきまとい等」を行った場合には、公安委員会による「禁止命令」がなされます。

5 罰則について。
  まず、「ストーカー行為」を行った場合には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることになります。
  この場合は、「親告罪」といって、被害者からの告訴がないと罰せられないので、処罰を求める場合は、必ず告訴をしないといけません。
  次に、「禁止命令」に違反して「つきまとい等」や「ストーカー行為」を行うと、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることになります。

6 このような制度があるにもかかわらず、事件が起きてしまった理由としては、警察の人員の問題や、警察の姿勢・意識などの問題があると思います。
  ただ、これらの問題は、すぐには解消されないでしょう。残念ながら、これらの不十分さを前提に行動せざるを得ません。
  警察だけでなく、周りの方がサポートをすることが大事です。
  初期の段階であれば、弁護士からの内容証明郵便で、事態が収まることもあります。
  なるべく早く、周りの方に相談することが大事です。


  ストーカー行為に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
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2014年06月23日

第35回「立証について」

1 質問
  「私は、マンションの3階に住んでいます。
   ベランダに洗濯物を干していたら、上からジュースみたいなものが降ってきて洗濯物にかかり、ベトベトになりました。
   洗濯物は洗い直しをしなければならず、また、ベランダの掃除も大変でした。
   降ってきたのが4階かその上か分からなかったので、とりあえず管理人に連絡をしたら、『どこから降ってきたか分からないので、次あった時に、どこから降ってきたのかを確認するしかない。』と言われました。
   このような場合、どうすればいいのでしょうか?」

2 まず、この場合、建物管理上の不備とは言いづらいので、管理人に対する管理責任の追及は難しいでしょう。
  次に、上の階の人が、誤って何かを落とし、それによって損害を被っているので、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。
  しかし、この請求をするためには、相手方を特定し、それを立証する必要があります。
  今回は、「上の階の人」ということまでは分かっていますが、それが4階なのか5階なのか、もっと上の階の人なのかが分かりません。
  もっと言うと、風に流された可能性もあるので、真上とは限りません。

3 降ってきて、すぐ上の階に行き、「ジュースをベランダからこぼしたか否か」を片っ端から聞いていき、自白する方がいればいいですが、そうでなければ特定・立証は難しいでしょう。
  部屋の中に無理矢理入って確かめるわけにもいきません。仮にそのようなことをしたら、住居侵入罪になってしまいます。
  ただ、今回とは違って、「刃物が落ちてきて怪我をした」ということになると状況は変わってきます。
  なぜなら、「過失傷害罪」という犯罪が関わってくるからです。
  犯罪ということになれば、警察が動き、強制捜査、つまり、部屋に強制的に入って捜査をする可能性があります。
  そうすると、誰が刃物を落としたのか、という特定ができ、損害賠償請求をすることが出来ます。

4 次の質問。
  「私は、ある劇団でミュージカルに出演しています。
   最近、本番寸前に衣装の靴が無くなって裸足で舞台に立つことがありました。
   本番が終わって、ふと気づくと元の場所に靴があります。
   他にも、衣装のスカートが裂かれたり、ジッパーが壊されたりということがありました。
   私が苦労しているのを見て、笑っている女性がいたので、問いただしましたが、全く認めず、話になりませんでした。
   嫌がらせかどうか分からないのですが、何かいいアドバイスをください。」

5 仮に、その女性がやっているとすれば、不法行為に基づく損害賠償支払義務が発生します。
  また、器物損壊罪という犯罪にもなります。
  この場合も、本当にその人がやったのか、という立証が問題になります。
  その女性は認めていないということなので、他の手段によって、立証をしなければなりません。
  自分で防犯カメラを設置するということも考えられますが、費用などの問題があり、現実的ではないと思います。
  一番いいのは、その劇団の代表者など上の人に相談することです。
  そうすることによって、その女性の動きに注意を払ってくれて、目撃証言などが得られる可能性もありますし、劇団員の同意を得た上で、防犯カメラを設置してくれるかもしれません。防犯カメラの存在自体が抑止力になるでしょう。
  あとは、仲間・味方をいっぱい作るということです。
  疑心暗鬼になって、容易ではないと思いますが、そうすることによって、より多くの証言が得られることになります。


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