2014年06月13日

第13回「労災について」

1 質問
  「バイク通勤を会社の了解の上で行っていますが、先日の雪の日に、いつものコースだと坂が多いので、違うコースで少し遠回りで帰宅していたところ、バイクごと転び怪我をしました。
   この場合、労災は適用されるのでしょうか?
   ちなみに、その時は、遠回りなので、ついでに友達と一時間食事をするために寄り道を少ししていたのですが、これがダメと同僚に言われたのですが・・・」

2 まず、労災について、ご説明します。
  労働基準法では、75条以下において、使用者は労働者の業務上の疾病に関して、補償をしなければならないと定めています。
  しかし、使用者が補償金を支払わない、資力がない、などのリスクがあるので、そのリスクを軽減するために、労働者災害補償保険法、略して労災保険法という法律が定められています。
  業務上の災害については、労災保険法によって、各種の保険金が給付されます。
  通勤途中の災害についても、労災保険法によって保険金が給付されます。

3 通勤途中の災害について、保険金が給付されるのは、通勤に通常伴う危険が具体化した災害です。
  また、通勤経路を逸脱し、または往復を中断した場合には、その間及びその後の往復は通勤とは認められないが、それが生活上必要な行為であって、日用品の購入、職業能力開発、選挙権の行使、病院での診療などを理由とする最小限度のものである場合は、逸脱・中断の間を除き通勤として取り扱われます。

4 上記のことを簡単に言うと、起きた災害が通勤と関係あるのかどうか、ということです。
  例えば、仕事が終わって、まっすぐ家には帰らず、旅行に行ってしまって、旅行先で事故に遭った。このような場合でも、まだ自宅には帰っていない、つまり通勤途中だから保険金が給付されるというのは、おかしいですよね。

5 本件について検討します。
  まず、いつものコースとは違うコースだったということですが、これは、「雪が降って、坂の多いところを避けた」ということなので、これは、「合理的な経路」として問題ないと思われます。
  問題は、やはり「友人との食事」です。
  「友人と一時間食事」した後、自宅に帰るのは、「会社から帰宅する」というよりも、「友人との食事から帰宅する」というのが自然じゃないでしょうか。
  よって、今回の場合は、「通勤途中の災害」とは言えず、労災は適用されないと考えられます。

6 「友人との食事」ではなく、「会社の人との飲み会」だった場合は、どうでしょうか。
  この場合は、「状況による」ということになります。
  つまり、仕事の関係で打ち合わせをしていて、その際、多少の飲食をしたという程度であれば、大丈夫ですが、ほとんど打ち合わせが行われず、飲食がメインであった場合は、先ほどの「友人との食事」と状況は同じです。

7 食事の後、一旦会社に帰った場合は、どうでしょうか。
  この場合も、「状況次第」です。
  会社に戻って、本当に仕事をしていればいいですが、ただ単に休憩をしたとか荷物を取りに行ったという程度では状況は変わりません。
  実際に、飲食をした後、会社に戻り、その後の帰宅途中での災害が、「通勤災害」に当たるか否かが争われた事例がありますが、その事例では、仕事をしていたとは認められないとして、通勤災害とは認められませんでした。


  労災等の労働問題に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所まで。
  http://jwing-lawoffice.com
  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407






posted by 弁護士羽賀裕之 at 20:59| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第12回「相続について」

1 相続に関する争いは、非常に多いです。
  司法統計といって、裁判所が集めたデータがあるのですが、それによると、平成23年に裁判所に新たに起こされた遺産分割に関する争いは1万3000件余りです。遺産分割に関する争いとは、遺産をどのように分けるかという争いのことです。
  今述べたのは、裁判所における争いの件数で、他に裁判所に持ち込まれていない紛争もあります。

2 相続に関する争いが多い原因は、色々あると思いますが、遺言が作成されていないということも一つの要因だと思います。
  ちなみに、「遺言」は、法律用語で「いごん」と読みます。

3 「まだ先のことだから」とか「子どもたちで決めてもらえばいい」とか「うちは財産が少ないから大丈夫」などと思っていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。
  しかし、死というのは突然やってきますし、先ほど申し上げたように遺産に関する争いというのは現に存在していて、その争いを相続人たちに押し付けるのは極力避けるべきだと思います。
  「自分の人生に責任を持つ」ためにも、遺言は必要です。

4 遺言には、いくつか種類がありますが、代表的なのが、「自筆証書遺言」というものと「公正証書遺言」です。
  「自筆証書遺言」とは、文字通り自分で書く遺言、「公正証書遺言」とは、二人以上の証人立会いのもと、公証役場で公証人に作成してもらう遺言です。

5 それぞれのメリット・デメリットは、以下のとおりです。
  「自筆証書遺言」は、手軽で費用がかかりません。また書き直しも簡単です。
  ただ、自分で書くので、内容的に不備が生ずるおそれがあります。
  そして、死後に、家庭裁判所による「検認」という手続が必要になります。
  「検認」というのは、以後の偽造・変造を防ぐために、家庭裁判所において遺言を保全する手続です。
  一方、「公正証書遺言」は、公証人が作成するので、内容的に明確となります。「検認」も不要です。
  ただ、作成費用がかかります。また秘密が利害関係人に知られてしまうおそれがあるというデメリットもあります。

6 財産を全て特定の人にあげるという遺言も可能なのですが、「遺留分」というものに気を付けなければなりません。
  「遺留分」というのは、相続人の最低限の取り分です。ただ、兄弟には「遺留分」はありません。
  「遺留分」を侵害する遺言、つまり、「遺留分」と有している人に全く財産をあげない遺言というのは、後で返還を請求されるおそれがあります。

7 遺言は、いつでも撤回が可能です。
  後で、別の遺言を作成すれば、後の遺言が優先されます。


  遺言書作成や保管、相続問題に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所まで。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 20:02| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第11回「自転車の盗難について」

1 質問
  「買ったばかりの自転車を、駅の自転車置き場で盗まれました。
   数日後、私の自転車に乗っている人がいました。
   サドルの裏に名前が書いてあるので、間違いありません。
   すると、その人は、『自転車屋で買ったので、私に言われても。買った代金払ってもらえれば渡しますよ。』と言われました。『必要なら自転車屋の領収証見せます』と言われました。
   このような場合、どうすればいいでしょうか?」

2 本件は、民事、刑事両面で問題になります。
  まず、民事についてですが、質問者の方が、その場で相手から無理やり自転車を取り返すことはできません。
  なぜなら、「自力救済の禁止」というのがあるからです。
  「自力救済の禁止」というのは、きちんと法的な手続きに則って、自分の権利を実現しなければならない、という原則です。

3 では、質問者の方はあきらめなければいけないかというと、そうではありません。
  質問者の物を、質問者の承諾を得ずに、相手の方は持っているのですから、質問者は、自転車の所有権に基づき、返還請求権を行使していくことになります。

4 ただし、相手の方からは、「即時取得」というものを主張される可能性があります。
  「即時取得」というのは、買った相手が所有者であると信じた人を保護する制度です。  
  買った相手に所有権がなければ、その所有権を取得できないのが原則ですが、相手方が所有者であると信じた場合に、その信頼を保護しなければ、取引が立ち行かなくなってしまうので、その人に所有権を与えることにしたのが、この「即時取得」という制度で、民法192条に規定されています。

5 質問者の方も、この「即時取得」という制度によって、相手から取り返せないかというと、そういうわけでもありません。
  民法193条、194条に、「即時取得」の特則がありまして、その物が盗品などであった場合に被害者を保護しています。
  具体的には、盗難の時から2年間の回復請求というものを被害者に与えています。
  通常は無償なのですが、同種の物を販売している人から買った場合などは、対価を払って取り戻すことになります。
  今回の場合、相手の方が言っていることが正しければ、同種の物を販売している「自転車屋」で買ったということなので、対価を払って取り戻すことができます。
  今述べたのは、あくまで、相手の言っていることが正しかった場合です。
  「自転車屋」で買ったというのが、嘘で、本当は盗んだ人であった場合にはあてはまりません。

6 次に刑事ですが、まず、質問者の方がその場で無理やり取り返してしまった場合は、窃盗罪になる可能性があります。
  刑法の財産犯においては、「占有」といって「持っていること自体」を保護しようということになっています。
  だから、相手方がたとえ所有者でなくても、無理やり取れば、窃盗罪に当たる可能性があります。
  ただし、「自救行為」によって違法性がないという場合はあります。
  その場で取り返さなければ、戻ってくることは考えられないという状況で、荒っぽくない相当な行為であれば、「自救行為」として違法性はない、つまり窃盗罪は成立しない、ということになります。

7 相手の方は、まず、自転車置き場から自転車を盗んだのであれば、窃盗罪が成立します。
  盗んだのではなく、誰かから譲り受けた場合で、盗品であると知っていた場合は、盗品無償譲り受け、あるいは盗品有償譲り受け罪が成立します。

  
  J.ウィング総合法律事務所は、民事に限らず、刑事事件も扱っております。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 19:21| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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