2014年06月17日

第21回「家賃の滞納について」

1 質問
  「今、賃貸のマンションに住んでいます。
   お恥ずかしい話ですが、家賃を3か月ためてしまい、管理会社から『一週間以内に二か月分以上の入金が無ければ、鍵を換え、中の荷物は処理します。』と言われました。
   当然支払いが遅れているのは悪いですが、荷物まで処理されるのでしょうか?」

2 まず、質問者は、マンションを借りて家賃を支払うという賃貸借契約を締結しています。
  そして、家賃の支払いが滞っているので、契約上の義務を履行していないことになります。
  これを法律上の用語で、「債務不履行」といいます。
  そして、「債務不履行」の中には、義務の履行が不能になってしまった「履行不能」と履行は可能だけれども遅れてしまっている「履行遅滞」とがあります。
  今回の場合は、履行が遅れている「履行遅滞」にあたります。
  ちなみに、金銭支払債務については、「金は天下の回りもの」、つまり、世の中にお金がなくなることはなく、いくらでも調達して支払えるということで履行不能にならないということになっています。実際には、調達できないことがありますが、法律では、そのようになっています。
  そして、「履行遅滞」の場合は、「催告」といって、「いつまでに支払ってくださいね」と言った上で、相当期間経過した場合には、契約を解除することが出来ます。

3 通常の契約では、1回遅れただけで解除が出来ます。
  しかし、賃貸借契約というのは、当事者間の信頼関係を基礎としているので、信頼関係が崩れてしまうような不払いが続いた時に解除できるということになっています。
  これを「信頼関係破壊法理」といいます。
  1回遅れただけでは、信頼関係は破壊されていないとして、解除は認められないでしょう。
  ただし、今回の質問者の場合は、3か月分滞納しているということなので、信頼関係が破壊されたとして解除が認められる可能性があります。

4 今回、「鍵を換え、荷物を処理する」と言われていますが、このようなことは出来ません。
  「自力救済の禁止」というのを、「第11回自転車の盗難について」で扱いました。
  おさらいしますと、「自力救済の禁止」というのは、きちんと法的な手続に則って、自分の権利を実現しなければならない、という原則です。
  今回の場合、裁判などの法的な手続を経ずに、鍵を換えたり、荷物を処理すれば、違法な行為となります。
  質問者の同意を得ずに、部屋に入れば、住居侵入罪に当たることにもなります。

5 もっとも、このまま放置していても、問題の解決にはなりません。
  このまま滞納し続ければ、いずれは、裁判を起こされ、明け渡しを求められることになるでしょう。
  滞納の原因をはっきりさせて、今後の生活を立て直す必要があります。
  他に借金があるのであれば、債務整理をする必要があるかもしれませんし、何らかの事情によって働けていないということであれば、生活保護の受給も考える必要があります。
  質問者の言葉の中に、「お恥ずかしい話ですが」というのがありましたが、トラブルを抱えることは、何も恥ずかしいことではありません。
  少なくとも、私は、トラブルを抱えている人を笑うということは絶対にありません。

  トラブルが発生したらJ.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)までご相談ください。
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  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407
  
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第20回「亡くなった父のスーツ代金について」

1 質問
  「私の父が先日他界しました。
   数日後、近所の洋服仕立て店から、『お父さんの仕立てたスーツが出来ているのですが、代金の支払いを』と言われました。
   父はもういないので、スーツは要らないのですが、仕立てたなら、オリジナルだから、払わなければならないのでしょうか?」

2 まず、質問者のお父さんと洋服仕立て店との間でどのような契約が成立したかを考えます。
  お父さんが、洋服仕立て店に「スーツを作る」という仕事の完成を依頼し、これに対して代金を支払う、という契約をしたと言えるので、これは、「仕事の完成」の依頼と「代金支払い」を合意したということで、「請負契約」と言えます。
  法律上は、お父さんを「注文者」、洋服仕立て店を「請負人」といいます。
  そして、今回お父さんが亡くなったということですが、請負契約において、注文者が亡くなっても、それだけでは契約は終了せず、注文者の地位を相続人が引き継ぐことになります。
  今回でいえば、相続人である質問者がお父さんの注文者としての地位を引き継ぎます。

3 よって、原則として、質問者が代金を支払わなければならないということになります。
  では、「例外は?」といいますと、
  まず、相続放棄した場合です。
  相続開始を知ったときから3か月以内であれば、相続放棄をすることが出来ますが、この場合は、お父さんの権利・義務を引き継がないので、代金支払義務を負いません。
  相続放棄は、家庭裁判所に申告することによって出来ます。
  次に特約があった場合です。
  民法の中には、任意規定と強行規定というのがあり、強行規定というのは、当事者の合意によって排除できないもので、それ以外は任意規定と言います。
  今回の、「注文者の死亡によっても請負契約は存続する」というのは、強行規定ではないので、当事者の合意によって排除が可能です。
  今回、仮に「注文者であるお父さんの死亡によって、契約は終了し、スーツが途中まで仕立ててあっても、代金支払義務は発生しない」というような特約がなされていれば、質問者は代金支払義務を負いません。
  ただ、実際に、そのような特約がなされるということはないと思いますが。

4 今回の事例を既製品に置き換えると、代金後払いということで、あまり考えられない事例になりますが、その場合も法律上は結論として同じです。
  既製品だった場合は、請負契約ではなくて、売買契約ということになりますが、売買契約でも請負契約と同様に、買主の死亡というだけでは、契約は終了しません。
  よって、相続人である質問者が買主としての地位を引き継ぎ、代金支払義務を負うことになります。
  そして、例外は、相続放棄と特約ということになりますが、既製品の場合は、「他の人にも売れる」というのがあるので、お店側としてはキャンセルに応じることもあると思います。

  相続に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 20:44| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第19回「着物の泥はねについて」

1 質問
  「成人式に着物を着て、式場に向かう途中で、車がはねた泥で着物がすごく汚れました。
   車のナンバーを控えてあるのですが、どうしたらクリーニング代が取れるのでしょうか?」

2 まず、相手と交渉するにしても、訴訟を起こすにしても、相手が誰で、どこにいるのかが分からないといけません。
  今回は、車のナンバーを控えているということですが、これだけでは、相手がどこの誰だか分かりません。
  そこで、「車のナンバー」という情報から、相手がどこの誰かを調べることになります。
  その方法は、弁護士会照会という方法です。
  これは、弁護士が、受任している事件について、弁護士会を通じて、各種団体に対して、必要事項の照会を求めることが出来るという制度です。
  今回でいうと、自動車登録について管理している運輸局に対して、照会を求めると、その自動車所有者の氏名や住所が分かります。

3 この手続は一般の人は行うことが出来ません。
  弁護士会照会というのは、弁護士法に規定されていて、「弁護士が」「受任している事件」についてのみ、行うことが出来ます。

4 もっとも、今回の場合、弁護士に頼めば、クリーニング代が必ず取れるということではありません。
  今まで述べたのは、「相手が誰かを突き止める」というところまでです。
  相手の方が、「はい。あなたの着物を汚したのは私です。」と言えばいいですが、そうではない場合、 「相手の不注意によって、自分の着物が汚れ、クリーニング代がいくらかかった」というのを立証していかないといけません。
  交通事故とは違い、この立証は容易ではないと思われます。
  交通事故の場合、警察も動いてくれますし、車の塗料が剥げ落ちたとかで証拠も残りやすいでしょう。
  しかし、泥はねの場合、警察は、民事不介入で動いてくれませんし、車のほうは、損傷等がなく証拠も残りにくいです。

5 残念ながら、立証が出来なければ、泣き寝入りせざるを得ないということになる可能性が高いです。
  ただ、「第5回契約について」で述べた、「どっちが立証しなければいけないかということ」、これを「立証責任」と言いますが、この「立証責任」が誰にあるかということを知るだけでも、今後の生活に役立つと思います。
  もちろん、「立証責任」を理解したからといって、全てのトラブルを回避できるわけではありません。
  しかし、契約を巡るトラブルなどは、不法行為など不意に起こる事故とは違い、予め考えて行動できるわけですから、法律を理解しているほうがいい、というのは当然です。


  相手方不明の場合でもすぐに諦めず、まずはJ.ウィング総合法律事務所(弁護士 羽賀裕之)まで、ご相談ください。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 20:05| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第18回「財布の落とし物について」

1 質問
  「先日、財布を落としました。
   交番に届けを出したら、翌日、拾った方に届けていただいたのですが、おまわりさんに、『拾った方にお礼をしてください』と言われました。
   財布には5万円とクレジットカードとキャッシュカードが入っていたので、1割ぐらいはと思って、5000円のお礼をしました。
   お礼の決まりはあるのでしょうか?」

2 落とし物に関しては、よく「拾った人は1割の報酬をもらう権利がある」なんて言われます。
  ただ、これは不正確です。
  落とし物に関しては、「遺失物法」という法律が規定されています。
  この遺失物法の28条に、拾った人への報労額が規定されていますが、そこには、落とし物の価格の「100分の5以上100分の20以下」と書かれています。
  つまり、必ず1割というわけではなく、5%から20%と幅を持たせてあります。

3 割合を決める客観的基準というものは、法律に規定されていません。
  まずは、当事者間で話し合い、そこで決まらなければ、訴訟を起こし、裁判所に決定してもらうことになります。
  裁判所が諸般の事情を考慮し、5%から20%の範囲内で割合を決定します。

4 先ほど、報酬の額は、「落とし物の価格」によって決められると述べました。
  では、「カード」の場合、「落とし物の価格」はいくらなのかという問題があります。
  「カード」は現金そのものとは違います。カード自体に、「いくら」と書いてあるわけでもありませんし、全く関係ない第三者がカードを使おうと思っても、そのままでは使えません。
  ただ、だからと言って、「カード」の財産的価値をゼロと考えるのも妥当ではありません。
  遺失物の報酬に関する判例というのは多くはないのですが、参考となる判例として、株券や小切手などの有価証券に関する判例があります。
  判例においては、有価証券の場合、額面や時価、そのものではなくて、第三者の手に渡ることによって、落とし主が損害を被る危険性の程度を考慮して、落とし物の価格を決定すべきとしています。
  その上で、株券について額面の70%、手形について額面の半分、小切手について2%を「落とし物の価格」とした事例などがあります。
  「カード」についても、「第三者の手に渡ることによって、落とし主が損害を被る危険性の程度」を考慮して、落とし物の価格が決定されると考えます。

5 もっとも、落とした方も拾った方も、あまりドロドロとした関係にはなりたくないですね。
  弁護士というと、法律をもとに一刀両断する、というイメージがあるかもしれませんが、私は、そうではなくて、当事者の気持ちの部分を重視しています。
  依頼者の今の気持ち、今後の人生を考え、何が一番いい解決方法なのか。それを依頼者の方と一緒に考え、依頼者のために全力でサポートしたいと考えています。


  J.ウィング総合法律事務所では、依頼者の気持ちを重視した解決方法を考えます。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 18:55| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第17回「契約のキャンセルについて第2弾」

1 質問
  「ネットの通販で洋服を買ったのですが、思っていた色と違ったので、商品が届いてから8日後にキャンセルを行いました。
   一度着てみたので、袋も開けています。
   そうすると、『クーリングオフの日が過ぎています』と言われ、受け付けてもらえませんでした。
   クーリングオフの詳しい決まりを教えてください。」

2 「クーリングオフ」については、第9回「契約のキャンセルについて」で、少し述べました。
  おさらいをしますと、契約というのは、守らなければならないという原則がありまして、その例外として、クーリングオフというのが、法律に規定されています。
  例外なので、法律に規定されている場合や、当事者間で合意した場合のみ、クーリングオフ、無条件解除をすることができます。

3 通信販売は、「特定商取引法」に規定されています。
  特定商取引法は、いくつかの商取引の類型を定め、それぞれの類型について規制のあり方を定めていますが、通信販売については、クーリングオフ制度を設けていません。
  通信販売というのは、消費者が広告を見て自発的に申込を行う取引であるから、というのがその理由です。

4 ただし、上述したように、クーリングオフ・無条件解除というのは、当事者の合意がある場合にもできます。
  今回の場合は、おそらく「商品到着後一週間以内であれば、クーリングオフできる」というふうになっていたのではないでしょうか。
  この場合は、その合意によって、クーリングオフ・無条件解除ができます。

5 結論から申し上げると、今回の場合は、期限を過ぎているのでクーリングオフは出来ない、ということになります。
  特定商取引法に規定されているクーリングオフの場合ですと、必要事項が記載された契約書面が交付されてから、クーリングオフ期間が経過することになりますので、契約書に不備がある場合や、そもそも契約書が交付されていない場合には、クーリングオフ期間は経過せず、いつでも返品が可能です。
  しかし、通信販売のように、法律にクーリングオフが規定されていない場合には、当事者の合意によって、クーリングオフできる条件が決められるため、「必要事項が記載された契約書面が交付されてから、クーリングオフ期間が経過する」という縛りがありません。
  よって、今回の場合、クーリングオフは出来ないということになります。
  また、他の詳しい事情はわかりませんが、おそらく錯誤や債務不履行といったところも難しいと思われますので、返品は難しいと考えます。

6 「袋を開けた」という点について。
  今回の場合は、上述したように当事者の合意次第ですが、訪問販売にように、特定商取引法にクーリングオフが規定されている場合、一定の消耗品については、使用してしまうと、クーリングオフが出来ないこともありますが、それ以外の商品については、使用開始後でもクーリングオフが出来ます。

7 消費者保護のために、色々と規制がなされていますが、それでも、全てのトラブルを、法律が解消してくれるとは限りません。
  どのような規制がなされているのか、いないのか。そういった情報・知識を普段から入れておくことが重要です。


  クーリングオフ等に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所まで。
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