2014年06月18日

第26回「残業代について」

1 労働基準法に、使用者は、一日8時間以上、週40時間以上、労働者に労働させてはならない、と規定してあります。
  そして、労働組合等と、時間外労働させることができる、という協定を結んだ場合には、時間外労働させることができます。
  この協定は、労働基準法36条に規定されているので、「36(サブロク)協定」と呼ばれたりします。
  そして、36協定を結んだ場合でも、現実に時間外労働させた場合には、所定の割増賃金を支払わなければいけません。

2 どのような勤務形態の場合でも、一日8時間以上働いたら、残業代がもらえるというわけではありません。
  たとえば、いわゆる管理職にある人の場合は、一日8時間以上働いたとしても残業代を請求できません。
  もっとも、役職名から形式的に判断するのではなく、職務内容、時間管理を受けているかどうか、地位にふさわしい処遇を受けているかなどといった事情から、労務管理につき経営者と一体の立場にあるか否かについて、実質的に判断します。

3 「もともと賃金に残業代が含まれている」とか「各種手当を払っているから、さらに残業代を支払う必要はない」という主張は、許されるか?
  固定残業代制度、つまり残業代を定額で支払うというのは、それ自体は否定されません。
  しかし、それが有効であるためには、①割増賃金部分が通常の労働に対する賃金部分と明確に区別されていること、②当該手当が時間外労働に対する対価としての実質を有すること、③手当の額が労働基準法所定の割増賃金額を上回っていること、この3点が必要となります。
  この3点を満たさない限り、先ほどの主張は許されません。

4 タイムカードがないと残業代が請求できないとは限りません。
  時間外労働をしたか否か、どれくらい時間外労働をしたか、というのは労働者が立証しなければなりませんが、その立証手段は、タイムカードに限りません。
  業務日報や、パソコンのログイン記録、業務上送信したメールの時間記録も証拠となりますし、労働者自身が労働時間をメモしたものも証拠となります。

5 残業代は、2年で時効にかかります。
  よって、残業代が請求できるのは、遡って2年分ということになります。

6 なかなか、在職中に声を上げることは難しく、実際には、解雇や辞職するタイミングで請求することが多いです。
  
7 残業代を正確に出すためには、複雑な計算式を用いなければならないので、一般の人にはなかなか難しいかもしれません。
  そういった方々のために、J.ウィング総合法律事務所では、無料で残業代を計算するというサービスを行っています。
  残業代の計算を依頼したからといって、必ずしも残業代の請求についてご依頼する必要はありません。
  計算結果を見てから、改めてご依頼いただければ結構です。


  残業代や解雇等の労働問題に関する相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
  http://jwing-lawoffice.com
  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407




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第25回「女性の仕事と育児について」

1 質問
  「仕事と育児の両立に不安を持っています。
   この仕事と育児についての法規制というのは、どのようになっているのでしょうか?」

2 まず、ご存じの方も多いと思いますが、育児休業という制度があります。
  育児休業制度というのは、一歳未満の子どもを養育する労働者について、原則として、子どもが一歳になるまで、休業できる制度です。
  育児のために、仕事を休まざるを得ない方にとって、この育児休業という制度がなければ、仕事を辞めざるを得なくなってしまいます。

3 マタニティ・ハラスメントという言葉があります。
  マタニティ・ハラスメントとは、妊娠・出産した女性への職場での嫌がらせのことをいいます。
  もちろん、このようなことは言語道断ですし、法律でも、育児休業を取得したことに対する不利益扱いは禁止されています。

4 休業によって、仕事のスキルが失われる不安というのはあると思います。
  現在、首相が、「育児休業3年」という目標を掲げています。
  「女性の活用」という政策の一環だと思われますが、育児休業期間をただ単に延長しただけでは、何の解決にもならないと思います。
  首相は、「待機児童の解消」ということも目標に掲げています。
  重要なのは、社会全体で、子どもを育てようという意識を持つことだと思います。
  育児休業というのは、女性だけに保障された権利ではなく、男性にも保障されています。
  また、働きながら育児が出来るという環境を整えることが重要です。

5 働きながら育児が出来る環境整備に関しては、いくつか法規制があります。
  まず、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性については、労働基準法によって、通常の休憩時間のほかに、1日2回、各々少なくとも30分の育児時間を請求できることになっています。
  また、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性が請求した場合には、労働基準法によって、時間外労働をさせてはならないことになっています。
  さらに、育児休業を取らずに一歳未満の子どもを養育する労働者に対しては、育児休業法によって、短時間勤務制度、託児施設等の提供などの措置を取らなければならないことになっています。

6 育児休業期間中の賃金に関しては、育児休業給付という制度があります。
  これは、雇用保険法によって、育児休業を取得した労働者に対し、休業前の賃金の40%の給付金を支給する制度です。
  現在は、暫定的に40%ではなく、50%となっています。
  そして、現在、この支給割合を60%に引き上げることが検討されています。

7 色々な制度上の手当をしても、社会の目が、子どもを産むこと育てることに対して厳しければ、何の意味もありません。
  先ほども申し上げましたが、社会全体で、子育てをしやすい環境を考えなければなりません。
  決して、女性だけの問題ではありません。


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posted by 弁護士羽賀裕之 at 21:20| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第24回「非嫡出子の相続分差別について」

(注:以下は、平成25年8月6日放送)
1 質問
  「先日、結婚していない男女から生まれた子どもについての相続分に関する民法の規定について、争われた裁判があると聞きました。
   そもそも、相続分とは何でしょうか?」

2 相続分について、お話しする前に、まず、相続人の順位について、お話しします。
  相続に関しては、誰が優先的に相続人となるのかという順位があります。
  第一順位が子ども。第二順位が直系尊属といって、両親、祖父母など上の世代。両親、祖父母の間では、両親の方が優先されます。第三順位が兄弟姉妹です。
  そして、配偶者は、これらの順位に関わらず、常に相続人となります。
  つまり、子どもは常に相続人となりますが、子どもがいなければ直系尊属の方が相続人となり、子ども、直系尊属の方がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。

3 相続人がたくさんいた場合に、取り分がどうなるか、というのが相続分のお話しになります。
  相続人が複数いた場合の各自の取り分は、予め、民法に規定されています。
  これを「法定相続分」といいます。
  もっとも、この法定相続分というのは、遺言がない場合に、それによって分配するというもので、遺言によって、法定相続分とは違う割合で分配することは可能です。

4 法定相続分は、子どもと配偶者の場合は、1対1。直系尊属と配偶者の場合は、直系尊属が1に対して配偶者が2。兄弟姉妹と配偶者の場合は、兄弟姉妹が1に対して配偶者が3。というふうになっています。

5 たとえば、子どもが何人もいた場合は、どうなるのか。
  これが、今回問題となっている嫡出子と非嫡出子の相続分という話になります。
  子どもが複数いた場合については、民法900条4号に規定されています。
  それによると、原則として、それらの者の相続分は等しいものとされています。
  ただし、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分の2分の1とすると定められています。

6 嫡出子とは、婚姻関係にある男女から生まれた子をいいます。婚内子とも呼ばれたりします。
  一方、非嫡出子とは、婚姻関係にない男女から生まれた子をいいます。婚外子とも呼ばれたりします。

7 非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とした民法の規定が、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するのではないかという点が争われた裁判において、最高裁判所は憲法に違反しない、合憲であるとしてきました。
  その理由は、次のとおりです。
  まず、本件規定が、遺言などがない場合に機能する補充的な規定であることを前提としたうえで、本件規定の目的は、法律上の婚姻関係を尊重し、他方、非嫡出子の立場にも配慮し、2分の1の相続分を認めたもので、これは不合理とはいえないとしました。

8 反対の意見もあります。
  そもそも、子どもは出生について、何ら責任を負いませんから、非嫡出子であるというだけで、相続分の差別をすることは、「法律婚の尊重」という目的とは関連性がない、という意見があります。  
  また、現代では、親子、家族の関係は多様化していますから、そういった時代の背景と合わないという批判もあります。

9 最高裁判所は、5人の裁判官で審理する小法廷と、15人全員で審理する大法廷があります。
  今回の裁判においては、先日、大法廷で審理がなされました。
  大法廷というのは、判例を変更する場合などに開かれますので、今回、憲法違反であるという判断がなされる可能性があります。

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posted by 弁護士羽賀裕之 at 20:45| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第23回「痴漢冤罪について」

1 質問
  「先日、痴漢という汚名を着させられて逮捕されました。
   しかし、当時私は荷物を3つも両手に持っていたので、絶対に何もできない状態でした。
   女の子の一言で逮捕され、20日間も留置された後、結局、無実で釈放されました。
   残念なことは、世間的には逮捕イコール犯罪者という考えが私の生活を変えたことです。
   会社はクビになり、子どもは学校でいじめられたりと散々です。
   法律的には、逮捕された時は、あくまで容疑者であり、犯罪者であるかは裁判で決まるはずですよね?
   私の場合は、無実というか起訴もされず無実であることが証明されない状態ですので、理不尽で世間は怖いと思いました。
   この汚名を返上する方法はないですか?」

2 まず、質問者の方がおっしゃった「逮捕された時は、あくまで容疑者であり、犯罪者であるかは裁判で決まる」というのは大事です。
  「無罪推定の原則」あるいは「疑わしきは被告人の利益に」というのを聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、裁判で有罪が確定するまでは、容疑者、被告は犯罪者ではありません。
  ちなみに、法律用語では、容疑者のことを被疑者、被告のことを被告人といいます。
  現在は、裁判員制度があり、一般の方も刑事裁判に関わる可能性がありますが、この「無罪推定の原則」というのを理解し、被疑者、被告人になったからといって、犯罪者であると決めつけないことが重要です。

3 質問者の方の汚名返上方法としては、まず、被疑者補償という制度があります。
  被疑者補償というのは、身柄を拘束された被疑者が、罪を犯していなかったと認められた場合には、身柄拘束1日につき、1000円以上1万2500円以下の補償が受けられる制度です。
  被疑者補償によって、補償が受けられた場合には、その旨を官報及び新聞に載せるよう求めることができます。
  「官報」というのは、法律の公布や破産の情報などが掲載される国の機関紙です。
  官報や新聞に載せることによって、無実であったことを公にすることができます。

4 会社をクビになったという点ですが、法律的に言うと、「解雇された」ということになります。
  この解雇は、懲戒解雇あるいは普通解雇ということになると思いますが、いずれにしても、逮捕はされたものの、不起訴で釈放されているのですから、解雇は無効ということになると考えられます。
  よって、会社に対して、労働者としての地位にあることの確認や、解雇以後の賃金の支払を求めることが可能です。

5 いじめに関しては、先の国会で、「いじめ防止対策推進法」という法律が成立しました。
  まだ、施行はされていませんが、この法律によって、国、地方公共団体、学校は、いじめに対する諸々の施策を講じることが要求されています。
  施行前とはいえ、学校がいじめに対処するというのは当然です。
  学校においても、逮捕即犯罪者ではないということを教える必要があると思います。

6 勾留期間というのは、原則10日で、例外的に10日延長なのですが、この原則と例外が逆転している状況です。
  そして、長期間の身柄拘束というのは、不当な自白、冤罪につながる可能性があります。
  この点については改善されていくべきだと思います。

  不当な身柄拘束を受けたら、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)までご相談を。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 19:52| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第22回「アダルトサイトと荷物の遅配について」

1 質問
  「先日、新しいパソコンを買いました。
   珍しいのでネットを色々と見ていましたが、会員登録などはしていないのに、メールで『アダルトサイトをご覧になりました。料金は25万円になります。』と請求されました。
   当然、このサイトは見ていませんし、請求してきた会社も覚えがないのですが。」

2 今回の場合、質問者とサイト運営会社との間では、契約は成立していないと考えられるので、質問者は、代金を支払う必要がありません。
  いわゆる「ワンクリック詐欺」と呼ばれるもので、下手に返事をすると、しつこく連絡が来るおそれがありますので、無視をしてください。
  仮に、裁判所から書類が届いたとか、相手から電話があったとかありましたら、当事務所(J.ウィング総合法律事務所)までご相談いただければと思います。

3 質問
  「夏休みでハワイに行きましたが、ハワイに着いたときに私の荷物が届いていませんでした。
   カウンターに行って話したら、『ホテルに届ける』と言われました。
   ところが、最終的にホテルに届いたのが、帰る前日でしたので、必要な日用品を現地で購入せざるを得ませんでした。
   このような場合は、どれくらい請求できるのでしょうか?
   また、それは航空会社でしょうか?それとも、旅行代理店でしょうか?」

4 まず、航空会社に対する請求ですが、航空会社との契約は、国際運送約款に基づいて行われています。
  そして、約款中に、手荷物の遅配に関しては、受け取った日から21日以内に、書面による通知を航空会社に行わなければ、損害賠償請求できない、となっています。
  そして、その場合の請求額は、遅配のために購入した金額になると考えられます。

5 旅行代理店との契約は、旅行業約款に基づいて行われています。
  そして、その約款中にも、航空会社のそれと同様に、21日以内であれば請求できるとなっています。
  航空会社、旅行代理店、双方に請求できるということですが、もちろん二重取りは出来ません。

6 「約款」について。
  「約款」というのは、多数の契約を予定している場合に、それらを画一的に処理するために、予め準備された契約条項の集まりです。
  旅行でホテルに泊まった際に、宿泊した部屋に備え置かれている冊子のようなものを見たことがあると思います。
  あれも約款の一種で、宿泊約款と呼ばれるものです。
  ホテルには多数のお客さんが泊まりますが、それらの方と逐一詳細な契約書を交わしていては煩雑なので、予め準備した約款を使って契約することによって、その煩雑さを解消しています。

7 約款については、現実に内容を詳細に把握していなくても、その通りの契約が成立するということになっています。
  ただ、約款というのは、現在、民法上規定されていませんし、その法的効力について、理論構成がいまいちはっきりしないところです。
  そこで、民法改正論議において、この約款を規定しようということになっています。
  そこでは、約款を用いることを合意し、約款の内容を知ることが出来る状態になっていれば、約款が契約の内容になるとしていたり、一方当事者に過大な不利益を与える不当な条項がある場合には、その条項を無効とすること、などが盛り込まれています。
  迅速さと消費者保護とのバランスが大事です。


  消費者取引に関しトラブルに巻き込まれた場合は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)までご相談を。
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