2014年06月23日

第35回「立証について」

1 質問
  「私は、マンションの3階に住んでいます。
   ベランダに洗濯物を干していたら、上からジュースみたいなものが降ってきて洗濯物にかかり、ベトベトになりました。
   洗濯物は洗い直しをしなければならず、また、ベランダの掃除も大変でした。
   降ってきたのが4階かその上か分からなかったので、とりあえず管理人に連絡をしたら、『どこから降ってきたか分からないので、次あった時に、どこから降ってきたのかを確認するしかない。』と言われました。
   このような場合、どうすればいいのでしょうか?」

2 まず、この場合、建物管理上の不備とは言いづらいので、管理人に対する管理責任の追及は難しいでしょう。
  次に、上の階の人が、誤って何かを落とし、それによって損害を被っているので、不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。
  しかし、この請求をするためには、相手方を特定し、それを立証する必要があります。
  今回は、「上の階の人」ということまでは分かっていますが、それが4階なのか5階なのか、もっと上の階の人なのかが分かりません。
  もっと言うと、風に流された可能性もあるので、真上とは限りません。

3 降ってきて、すぐ上の階に行き、「ジュースをベランダからこぼしたか否か」を片っ端から聞いていき、自白する方がいればいいですが、そうでなければ特定・立証は難しいでしょう。
  部屋の中に無理矢理入って確かめるわけにもいきません。仮にそのようなことをしたら、住居侵入罪になってしまいます。
  ただ、今回とは違って、「刃物が落ちてきて怪我をした」ということになると状況は変わってきます。
  なぜなら、「過失傷害罪」という犯罪が関わってくるからです。
  犯罪ということになれば、警察が動き、強制捜査、つまり、部屋に強制的に入って捜査をする可能性があります。
  そうすると、誰が刃物を落としたのか、という特定ができ、損害賠償請求をすることが出来ます。

4 次の質問。
  「私は、ある劇団でミュージカルに出演しています。
   最近、本番寸前に衣装の靴が無くなって裸足で舞台に立つことがありました。
   本番が終わって、ふと気づくと元の場所に靴があります。
   他にも、衣装のスカートが裂かれたり、ジッパーが壊されたりということがありました。
   私が苦労しているのを見て、笑っている女性がいたので、問いただしましたが、全く認めず、話になりませんでした。
   嫌がらせかどうか分からないのですが、何かいいアドバイスをください。」

5 仮に、その女性がやっているとすれば、不法行為に基づく損害賠償支払義務が発生します。
  また、器物損壊罪という犯罪にもなります。
  この場合も、本当にその人がやったのか、という立証が問題になります。
  その女性は認めていないということなので、他の手段によって、立証をしなければなりません。
  自分で防犯カメラを設置するということも考えられますが、費用などの問題があり、現実的ではないと思います。
  一番いいのは、その劇団の代表者など上の人に相談することです。
  そうすることによって、その女性の動きに注意を払ってくれて、目撃証言などが得られる可能性もありますし、劇団員の同意を得た上で、防犯カメラを設置してくれるかもしれません。防犯カメラの存在自体が抑止力になるでしょう。
  あとは、仲間・味方をいっぱい作るということです。
  疑心暗鬼になって、容易ではないと思いますが、そうすることによって、より多くの証言が得られることになります。


  不法行為に基づく損害賠償請求に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
  http://jwing-lawoffice.com
  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407

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posted by 弁護士羽賀裕之 at 20:39| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第34回「パワハラやいじめについて」

1 質問
  「商社の広報部で働いています。広報部は、女性7名、男性9名です。
   半年前に男性社員Aさんと廊下で立ち話をしていたところを、上司の女性社員Bさんに目撃されました。
   それから、いじめが始まりました。
   仕事が終わる寸前に、毎日Bさんから『この書類、ミスが沢山あるので、明日の朝までに修正してください。』『当然、あなたのミスなので、残業代は出ませんよ。』と言われ、他の女性社員全員は帰ってしまいます。
   今まで仲良くお昼を一緒にしていた女性社員たちにも、Bさんの顔色を見て無視されてしまいます。
   プレゼン用の企画書を提出しても、ボツにされてしまいます。
   最終の企画書案は、私が作った企画書を少し変えただけで、Bさんの名前で提出されたりしています。
   いじめをやめてもらう方法はあるのでしょうか?」
 
2 パワーハラスメント、略してパワハラと呼ばれるものですね。
  パワハラについては、最近、厚労省が定義づけを行いました。
  それによると、パワハラとは
  「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
  をいいます。
  パワハラというと、上司から部下に対するものをイメージされると思いますが、同僚同士であっても、先ほどの定義にあてはまれば、パワハラです。

3 先ほどの定義は、抽象的な面もあるので、厚労省は、パワハラの類型として6つ挙げています。
  一つ目が、暴行・傷害。
  二つ目が、脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言。  
  三つ目が、隔離・仲間外し・無視。
  四つ目が、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害。
  五つ目が、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと。
  六つ目が、私的なことに過度に立ち入ること。
  です。
  質問者の場合をこれにあてはめると、まず、ミスの指摘については、本当にミスであれば、ミスの指摘自体はパワハラにあたりません。しかし、「明日の朝までに」というのが、そこまで急ぐ必要のないことであり、しかもそれが不可能であることであれば、四つ目の「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制」にあたります。
  また、「残業代は出ませんよ」というのは、本来受け取れるべきものについて、請求させないようにするものであり、脅迫・暴言などにあたると思われます。
  次に女性社員による無視というのは、三つ目の類型にあたります。
  最後に企画書の点は微妙ですが、仕事の妨害に当たり得ると思います。

4 パワハラをやめてもらう方法ですが、その上司や周りの同僚に言っても、難しいでしょう。
  その上司のさらに上の人に相談したり、会社に相談窓口があればそこに相談することが考えられます。
  厚労省も、パワハラ対策については、組織で取り組むことが求められています。
  また、パワハラを放置していれば、会社として、職場の環境を適切に保っていなかったということで、損害賠償請求されるおそれもあります。
  他の会社もそうですが、パワハラ対策が十分になされることを望みます。

5 パワハラによる損害賠償請求で、一番難しいのは、それをどう立証するかです。
  会社内部の出来事で、しかも、言動など客観的証拠として残りにくいものなので、立証のハードルは、かなり高いです。
  味方を多く見つけ、証言をしてもらえるといいのですが。

6 最近、あるタレントが、セクハラ疑惑に関する釈明で、「パワハラと言われるならともかく」というような発言をしたとのことですが、パワハラも立派な違法行為であり、このような発言はナンセンスというほかありません。


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posted by 弁護士羽賀裕之 at 19:55| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第33回「交通事故について」

1 質問
  「先日、路上にあるパーキングメーターに車を止めて、歩道に行こうと思いました。しかし、車道と歩道との間にガードレールがあるので、先の信号のところまで、仕方なく車道を歩いていました。もちろん、車道の端、歩道側を歩いていました。
   すると、私の右手に車のバックミラーが接触しました。
   運転手に「気を付けてください」と言ったのですが、逆に、「車が壊れたので修理代金を払え」と言われました。
   相手の言い分は、車道を歩いているから貴方が悪いのだということです。
   結局、話し合いで、車は相手が、私の怪我は私が処理することになりました。
   このような場合は、どうすればよいでしょうか?」

2 本件では、過失相殺における過失割合が問題になります。
  過失相殺については、第29回「タクシーでのトラブルについて」で扱いました。その時、お話ししたのは、債務不履行でしたが、交通事故のような不法行為についても同様に過失相殺が問題になります。
  過失相殺においては、どちらにどれだけの過失があるのか、という過失割合が問題になります。
  交通事故においては、この過失割合というのは、事故態様によって、ある程度類型化されています。
  今回の場合を、この類型化にあてはめると
  「歩行者と自動車の事故」
  「前進する自動車との事故」
  「道路横断の際の事故ではない」
  「車両が通行する通路部分での事故」
  「道路を通行中の事故」
  「歩車道の区別のある道路の車道部分での事故」
  となります。
   そして、この場合、車道の通行が許される場合か、そうでないかで分かれます。

3 車道の通行が許される場合について、道路交通法10条2項は、次の場合を挙げています。
  一つは、車道を横断するとき。
  もう一つは、道路工事等のため歩道等を通行することができないとき、その他やむを得ないとき。
  この「やむを得ないとき」というのは、帽子が車道の方に飛んでしまったとき、子どもが飛び出してしまったときなどが典型例とされていますが、今回の場合も、ガードレールによって車道を通行せざるを得なかったのであり、「やむを得ないとき」に当たるといっていいと思われます。

4 車道の通行が許される場合の過失割合は、基本的には、歩行者10に対して自動車90です。
  車道の通行が許される場合であっても、車道を通行する以上、前や後ろから来る車に気を付けなければいけないということで、歩行者の過失割合は基本的にゼロではありません。

5 今回の場合、質問者の被った損害の9割を運転手に請求でき、逆に運転手が被った損害の1割を負担しなければいけないということです。
  ただし、双方が損害を被った場合というのは、気を付けなければいけません。
  過失割合の大きい方の損害額が大きいと、過失割合が小さい方が、多く支払わなければならない場合があります。
  今回の場合、そもそも相手方に損害があったのか、質問者の方の損害はどれくらいだったのか、などが不明なので何とも言えませんが、その後の交渉の煩わしさを考えると、今回のようにそれぞれで処理するというのが良かったのかもしれません。

  
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 18:59| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第32回「アルバイト店員や客による、いたずら投稿について」

1 質問
  「最近、飲食店などで、アルバイト店やお客さんによる、いたずら画像のネットへの投稿が相次いでいます。
   彼らの法的責任というのは、どうなるのでしょうか?」

2 民事上は、違法な行為で、お店に損害を与えたとして損害賠償請求が、
  刑事上は、お店の業務を妨害したとして、業務妨害罪の成否が、
  問題となります。

3 閉店するところも出たようです。
  衛生面や、信用失墜などから閉店をするという判断だと思われます。
  ただ、損害賠償の範囲として、閉店したことまでの責任を問えるかというと微妙です。
  確かに、彼らの行為によって、お店のイメージが悪くなるということはあると思いますが、閉店というところまでいくと、お店側の自主判断によるところも大きいと思います。
  つまり、彼らの違法行為とお店の閉店という損害との因果関係が認められるかという問題です。

4 損害賠償請求を検討していることろは、お金が欲しい、というよりも、制裁の意味が強いんではないでしょうか。
  訴訟を起こされて、それに応じるだけでも負担となりますし、「こういうことをすると訴訟を起こされるんだ」ということになれば、抑止力にもなります。

5 アルバイト店員の閉店後のいたずら投稿は、先ほど述べた事情などからも業務妨害罪での立件は難しいと思います。
  ただ、客が飲食店の営業中に全裸で居座った事例がありましたが、あれは業務妨害罪で立件される可能性があります。
  客は、お店の承諾を得たと主張しているようなので、承諾の有無がポイントになりそうです。

6 アルバイト店員の中には、未成年の人もいましたが、未成年の子が違法な行為をした場合、親が全責任を負うかというと、必ずしもそうとは限りません。
  民事上、不法行為の責任を問える能力、これを責任能力といいますが、責任能力があれば、未成年者であっても、損害賠償を支払う義務が生じます。
  責任能力というのは、「自分の行為が違法なものとして、法律上非難されるものであることを認識できる能力」のことをいいますが、大体12歳くらいであれば、あると判断されることが多いです。
  未成年者に責任能力がない場合は、原則として親が責任を負います。

7 未成年者に責任能力がある場合、親に全く責任を問えないかというと、そういうわけでもありません。
  未成年者に責任能力がない場合の親の責任については、民法714条に定めがあるのですが、この規定は、被害者側の立証の負担を軽減した規定です。
  つまり、不法行為に基づいて損害賠償を請求する場合は、通常、加害者の過失を立証しなければならないのですが、民法714条においては、親が「過失がなかったこと」を立証しなければいけません。
  未成年者に責任能力がある場合は、民法714条の規定を使えないので、一般原則通り、親の監護義務違反、過失を立証すれば、親に責任を問うことも可能です。

  
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 17:58| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第31回「非嫡出子の相続分差別について~違憲判断を受けて~」

1 質問
  「第24回でも取り上げた『非嫡出子の相続分差別について』ですが、先日、最高裁判所で違憲という判断が下されました。
   この判断のポイントは、どこにあったのでしょうか?」

2 一言で言えば、「時代の変化」です。
  最高裁は、まず、相続制度というのは、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情、家族というものに対する国民の意識などを総合的に考慮して定めなければならないとしています。
  最高裁は、平成7年に本件規定について合憲であると判断しましたが、今述べた事情というのは、時代とともに変化するので、その変化した事情を基に、改めて本件規定が合理的理由のない差別的取扱いにあたるのか否かを判断しなければならないと言っています。

3 終戦直後に民法が改正された際には、
  「相続財産は、嫡出の子孫(婚内子)に承継させたいとする気風」や「法律婚を正当な婚姻としてこれを尊重し保護する反面、法律婚以外の男女関係やその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識」、「嫡出子と非嫡出子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例」などがあり、これらが本件規定を支えていました。
  しかし、その後、晩婚化、非婚化、少子化が進み、婚姻、家族の形態は著しく多様化しました。そして、それに伴って、婚姻や家族の在り方に対する国民の意識の多様化も進みました。
  さらに、諸外国においても、嫡出子と非嫡出子の相続分に関する差別を廃止する立法がなされました。最高裁が合憲の判断を下した平成7年当時に差別が残っていたドイツやフランスでも、その後、差別が撤廃されました。
  そして、条約に基づき、国連関連組織からも、差別を撤廃するよう度々勧告を受けてきました。

4 こういった事情の変化から、最高裁は、「家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかである」としています。
  そして、「父母が婚姻関係になかった」という、子どもにとって、自ら選択する余地のない事柄を理由として、その子どもに不利益を及ぼすことは、許されず、本件規定の合理性は失われているとしました。

5 最高裁は、遅くとも、本件事件の相続が開始した平成13年7月の時点で違憲だったとしています。
  しかし、今回の最高裁判断の書きぶりを見ると、合憲判断を下した平成7年の時点で、既に違憲の疑いがあったと読めます。
  国会による立法措置を期待していたが、遂にしびれを切らしたという感じでしょうか。

6 平成13年7月以降に、本件規定によってなされた他の遺産分割事件について、既に審判や合意などによって「確定的なものとなった」法律関係には影響を及ぼさないとしています。
  しかし、確定的なのか未確定なのかを巡って、今後紛争が起こる可能性はあります。


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posted by 弁護士羽賀裕之 at 17:10| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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