「先日、某知事が、押印や利息の定めなどがない簡単な借用証を、お金を借りた証拠として提示しました。
あのような借用証は、法的には有効なのでしょうか?」
2 まず、お金の貸し借りの契約がどのようなものか、ご説明します。
お金の貸し借りの契約は、法律用語で、「金銭消費貸借契約」といいます。
金銭消費貸借契約は、
①「お金を貸しましょう。借りましょう。」という合意と
②お金の受け渡し
の二つがあれば成立ちます。正確には、返済期限の合意というのも必要ですが、とりあえずここでは措いておきます。
金銭消費貸借契約というのは、このように①返還合意と②金銭の授受で成立し、借用証などの書面が必須というわけではありません。
このように書面などがなくても成立する契約は、第5回「契約について」でも述べたように、「不要式契約」といいます。
3 よって、「借用証が法的に有効か否か」というのは、少しピントがずれています。正確には、「この借用証によって、金銭消費貸借契約があったと推認できるか否か」と言うべきです。
どのような点がポイントになってくるかというと、「経験則」に照らして妥当か否かという点です。
皆、社会生活をしている上で、「こういう場合は、こういう行動を取るのが自然」という「経験則」をお持ちだと思います。その「経験則」に照らして考えます。
今回のように、非常に高額な金銭を借りる場合、「通常の人」だったら、どう行動するでしょうか?
「通常の人」は、きっちり細かく決めないと、怖くて借りられないはずです。
利息の有無、利率、返済期限などをしっかり定めるなど、「きっちりしたもの」を作るはずです。
今回のような借用証は、「通常ではありえない」、それが経験則に照らした結果です。
4 「実印が押されていなかった」という点ですが、「実印が押されていたから契約成立」とか「実印が押されていないから契約不成立」というわけではありません。
ただ、「実印」というのは、証拠価値上、重要な意味があります。
実印が押された文書というのは、印鑑登録された人によって作成されたと推定されます。認印では、こうした効力はありません。
どうしてこういう効力があるかというと、日本が「はんこ社会」だからです。実印は、「非常に慎重に扱い、簡単に他人に預けたりはしない」そういう経験則があるから、実印が押された文書というのは、その人自身が作ったというふうに推定されるのです。
だから、実印が押されているにも拘らず、自分で作っていないというためには、実印が盗まれた事実などを積極的に立証していかないといけません。
5 実印は、大事にしないといけません。
あと改竄を防ぐというのも大事です。
今回、借入金額のところがスカスカになっていましたが、あれでは改竄が容易になってしまいます。
数字の前に¥マーク、数字の後ろに横棒を付けるなどしないと、いくらでも数字を付け加えることが出来てしまいます。
今回、そのようになっていなかったということは、改竄などありえない、つまりは・・・
これ以上はやめておきますが、政治とカネの問題は、我々国民もしっかり監視しないといけません。
借用証など貸金に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
http://jwing-lawoffice.com
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