「『全聾の作曲家』として知られていた佐村河内守氏が、別人に作曲を依頼していた件で、先日、佐村河内守氏が会見を行いました。
その中で、佐村河内氏は、ゴーストライターである新垣氏を名誉毀損で訴えると言っていました。
このような主張は通るのでしょうか?」
2 まだ佐村河内氏が新垣氏を訴えていないので、どのような事実に対して訴えることになるのか定かではありませんが、おそらく次の点について訴えることになるのではないかと思います。
まず、一点目は、次の新垣氏の発言です。
新垣氏は、ゴーストライティングについて、「何度もやめようと言った。」「やめようと言うと、佐村河内氏は、『書かなければ自殺する』などと言った。」と発言しています。
この点について、佐村河内氏は、会見において、「新垣氏がやめようと言ったのは一度だけである」と言っています。
3 確かに主張に食い違いがあります。
ただ、主張に食い違いがあるというだけでは名誉毀損とはなりません。
その言動が、相手方の社会的名誉を低下させるものでなければ、名誉毀損とはなりません。
今回、佐村河内氏と新垣氏がゴーストライティングに関する合意をしていたというのは、双方が認める事実ということになっています。
それに加えて、「新垣氏が何度もやめようと言った」つまり、「新垣氏は乗り気ではなく、佐村河内氏が主導していた」というのは、佐村河内氏の名誉をさらに低下させるものかというと、そうではないと考えます。
ただし、佐村河内氏が「書かなければ自殺する」など、脅迫的な言葉を言っていた、というのは、佐村河内氏の名誉をさらに低下させる可能性があります。
4 仮に社会的名誉を低下させるものであっても、それが公共の利害に関する事項で、公益目的があり、それが真実であるか、あるいは真実と信じるにつき相当の理由がある場合は、違法性がありません。
今回の場合も、佐村河内氏がそのようなことを言っていたのか、それが真実なのか、仮に真実でなくても真実であると信じるにつき相当の理由があったのか否かが問題になると思われます。
5 他に問題となる発言としては、次のものがあります。
「私が接した中で、聞こえないと感じたことは一度もない」
ただ、この発言自体は、新垣氏の感想を述べただけで、佐村河内氏が健常者と断定しているわけではありません。
この発言は、次の発言と併せて考える必要があります。
「私が録音したものを彼が聞き、彼がコメントするということがあった」
これは具体的事実であって、他の人に健常者であると認識させるものです。
6 佐村河内氏は、難聴であると言っていました。そうすると、新垣氏の発言は、名誉毀損になるのか。
佐村河内氏は、少なくとも現在、全聾ではないことは認めています。
全聾ではないにも拘らず、全聾であると偽っていたことには変わりないので、それが難聴であったか、完全に聞こえていたのかは、さほど変わらない気もします。
そのように考えると、新垣氏の発言は、そもそも、佐村河内氏の名誉を低下させるものとは言えず、名誉毀損には該当しないことになります。
仮に、佐村河内氏の名誉を低下させるものと考えた場合は、先ほどと同様、それが真実かどうか、真実であると信じるにつき相当の理由があったか否かが問題となります。
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