2014年07月02日

第52回「佐村河内守氏について 第2弾」

1 質問
  「『全聾の作曲家』として知られていた佐村河内守氏が、別人に作曲を依頼していた件で、先日、佐村河内守氏が会見を行いました。
   その中で、佐村河内氏は、ゴーストライターである新垣氏を名誉毀損で訴えると言っていました。
   このような主張は通るのでしょうか?」

2 まだ佐村河内氏が新垣氏を訴えていないので、どのような事実に対して訴えることになるのか定かではありませんが、おそらく次の点について訴えることになるのではないかと思います。

  まず、一点目は、次の新垣氏の発言です。
  新垣氏は、ゴーストライティングについて、「何度もやめようと言った。」「やめようと言うと、佐村河内氏は、『書かなければ自殺する』などと言った。」と発言しています。
  この点について、佐村河内氏は、会見において、「新垣氏がやめようと言ったのは一度だけである」と言っています。

3 確かに主張に食い違いがあります。
  ただ、主張に食い違いがあるというだけでは名誉毀損とはなりません。
  その言動が、相手方の社会的名誉を低下させるものでなければ、名誉毀損とはなりません。
  今回、佐村河内氏と新垣氏がゴーストライティングに関する合意をしていたというのは、双方が認める事実ということになっています。
  それに加えて、「新垣氏が何度もやめようと言った」つまり、「新垣氏は乗り気ではなく、佐村河内氏が主導していた」というのは、佐村河内氏の名誉をさらに低下させるものかというと、そうではないと考えます。
  ただし、佐村河内氏が「書かなければ自殺する」など、脅迫的な言葉を言っていた、というのは、佐村河内氏の名誉をさらに低下させる可能性があります。

4 仮に社会的名誉を低下させるものであっても、それが公共の利害に関する事項で、公益目的があり、それが真実であるか、あるいは真実と信じるにつき相当の理由がある場合は、違法性がありません。
  今回の場合も、佐村河内氏がそのようなことを言っていたのか、それが真実なのか、仮に真実でなくても真実であると信じるにつき相当の理由があったのか否かが問題になると思われます。

5 他に問題となる発言としては、次のものがあります。
  「私が接した中で、聞こえないと感じたことは一度もない」
  
  ただ、この発言自体は、新垣氏の感想を述べただけで、佐村河内氏が健常者と断定しているわけではありません。
  この発言は、次の発言と併せて考える必要があります。
  「私が録音したものを彼が聞き、彼がコメントするということがあった」
  これは具体的事実であって、他の人に健常者であると認識させるものです。

6 佐村河内氏は、難聴であると言っていました。そうすると、新垣氏の発言は、名誉毀損になるのか。
  佐村河内氏は、少なくとも現在、全聾ではないことは認めています。
  全聾ではないにも拘らず、全聾であると偽っていたことには変わりないので、それが難聴であったか、完全に聞こえていたのかは、さほど変わらない気もします。
  そのように考えると、新垣氏の発言は、そもそも、佐村河内氏の名誉を低下させるものとは言えず、名誉毀損には該当しないことになります。
  仮に、佐村河内氏の名誉を低下させるものと考えた場合は、先ほどと同様、それが真実かどうか、真実であると信じるにつき相当の理由があったか否かが問題となります。


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posted by 弁護士羽賀裕之 at 22:22| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第51回「消火活動による損害填補について」

1 質問
  「先日、分譲マンションを購入しました。
   入居して3日後に2階下の部屋から出火しました。
   私の部屋は大丈夫だろうと安心して部屋に入ると、水浸しで、新しく買った家具、電化製品がほとんど使えなくなりました。
   原因は、おそらく空気の入れ替えのために少し窓を開けていたからです。
   このような場合は、どこかに請求可能でしょうか?
   出火した部屋の主は亡くなっておりますし、引っ越しして日がまだ浅いため、火災保険に入っていませんでした。」

2 他人の違法な行為によって、損害を被った場合、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。
  しかし、今回は、火事に関するものなので、民法709条は適用されず、「失火の責任に関する法律」略して失火法が適用される可能性が高いです。
  失火法とは、失火の場合には、重大な過失がある場合のみ、損害賠償責任が発生すると定めた法律です。
  通常の不法行為では、過失があれば足りるので、失火者を保護する法律となっています。

3 日本は、木造家屋が多く、燃えやすい、燃え広がりやすいというのがあるので、単に過失があるというだけで、責任を負わせると、莫大な損害を賠償せざるを得ない。そこで、重過失がある場合のみ責任を負わせることにしたのが失火法です。
  ただ、今は、木造家屋は少なくなってきています。
  実は、この失火法というのは、明治時代に出来た法律で、それが今もそのまま残っています。
  鉄筋コンクリートのマンションなどが増えた現代において、この法律は時代遅れなのではないかという批判もあります。
  ただ、今のところ失火法は廃止されていないので、本件においては、仮に失火ということで、相続人がいたとしても、請求は難しいと思われます。

4 消防隊については、消防法29条に、消火活動の際に生じてしまった損害について、市町村に対する補償請求について定めた規定があります。
  消防法29条は、補償請求できる場合と、そうでない場合が規定されていますが、本件のように、6階の火事で8階に生じた損害というのは対象外になると思われます。


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posted by 弁護士羽賀裕之 at 19:21| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第50回「屋根からの雪落下について」

1 質問
  「知人が東京から茨城にある私の家に来ました。
   彼が家の前に車を止めていたら、ドスンと音がしました。
   家を出てみたら、車の上に、家の屋根に積もっていた雪が落ちて、車の屋根がへこんでいました。
   このような場合は、私が修理をしなければならないのでしょうか?
   雪国の人たちは、屋根の下は危ないのは理解していらっしゃると思いますが、彼は東京人なので分からなかったみたいです。」

2 本件では、民法717条の工作物責任というのが問題になります。
  工作物責任とは、土地の工作物ー建築物ーなどに不備があり、その不備によって他人に損害を与えてしまった場合の責任のことをいいます。
  この場合、第一次的には占有者が損害賠償責任を負い、占有者が損害防止について必要な注意をしたときは、所有者が損害賠償責任を負います。

3 占有者とは、物を事実上保持している人のことをいいます。
  所有権を有していなくても、占有していることで、権利や義務を負うことになります。

4 今回の場合、質問者の方が責任を負うか否かは、建物に不備があったかどうかによります。
  この不備のことを、法律上は瑕疵といいますが、瑕疵とは、通常備えるべき安全性を有していないことをいいます。
  その地域がどれくらい雪が降る地域なのかにもよると思いますが、滑り止め措置を施していなかった場合には瑕疵があると判断される可能性があります。
  その場合、質問者の方は、修理費を支払わないといけません。

5 工作物責任と似たようなものに、民法718条の動物占有者の責任というものがあります。
  これは、動物を飼っているなど占有している人は、その動物が他人に加えた損害について、賠償責任を負うというものです。
  相当の注意をしていた場合には、免責されます。
  しかし、通常の不法行為では、過失の有無というのは、請求する側、つまり被害者が立証しないといけませんが、動物占有者の責任の場合は、相当の注意をしたことを占有者の側が立証しないといけません。
  先日、俳優の反町夫妻が、飼っていたドーベルマンが人を傷つけたことについて報道されていましたが、あれも動物占有者の責任が問題となります。
  もっとも、訴訟になったのは、動物占有者の責任とは別の問題でしたが。

6 工作物責任と動物占有者の責任に共通しているのは、「危険責任の法理」というものです。
  危険責任の法理とは、他人に損害を生じさせるような危険性がある物を持っている人が、その危険について責任を負うことが公平である、というものです。

7 福島の原発事故による、東電の責任も、この危険責任の法理に基づいています。
  東電は、危険責任の法理を具体化した、原子力損害の賠償に関する法律によって、無過失責任を負います。
  一日も早く被災者の方の損害が回復されることを望みます。


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posted by 弁護士羽賀裕之 at 18:43| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第49回「佐村河内守氏について」

(注:以下は、平成26年2月25日に放送したものです。)
1 質問
  「『現代のベートーベン』と称され、『全聾の作曲家』として有名だった佐村河内守氏が、別人に作曲を依頼していた件が問題となっています。
   この件について、法律的には、どのようになるのでしょうか?」

2 法律的には、著作権や、民事の損害賠償、刑事の詐欺など色々な点が問題となります。
  まず、現時点で明らかになっている事実関係をまとめます。
  報道等によると、佐村河内氏は、「被爆2世の全聾作曲家」として「HIROSIMA」などの曲を発表し、クラシックとして異例のヒットを飛ばした。
  しかし、佐村河内氏が作曲したとされる曲は、実は、別人の大学非常勤講師である新垣氏が作っていた。その際、佐村河内氏は、曲のイメージなどを書いた「指示書」を渡していた。
  佐村河内氏は、聴覚障害があるとして障がい者手帳の交付を受けていたが、少なくとも、今は、聞こえている状態である。
  ざっと、こんなところですが、まず著作権について考えてみたいと思います。

3 今回は、まず、新垣氏が著作者であることは間違いがなさそうです。  
  では、佐村河内氏が著作者であると言えるのか。
  この点、「共同著作」というものに当たれば、佐村河内氏も著作者となります。
  しかし、今回公表されている「指示書」を渡しただけであれば、「共同著作」というのは難しいかもしれません。

4 そうすると、著作権は、新垣氏にあるのか。
  著作権というのは、譲渡が可能です。
  今回も関係者は、新垣氏から佐村河内氏に著作権が譲渡されているということを言っています。
  ゴーストライターというのは、よくあるようで、当事者間では、ゴーストライティング契約が結ばれます。
  ゴーストライティング契約においては、著作権の扱いも決められます。

5 ゴーストライターそのものは、特に問題になることは多くないと思います。
  それは、受け取る側が、「ゴーストライターはよくあることだ」ということを知っている、あるいは疑っているからです。
  しかし、今回は、「全聾の作曲家」ということを全面的に出していました。
  つまり、およそゴーストライターはあり得ず、佐村河内氏自身が作曲していると消費者に認識させるものでした。
  消費者を欺くものだったと言わざるを得ないでしょう。

6 損害賠償や詐欺ということになるか。
  欺いてお金を稼いでいたので、その可能性は十分あります。
  また、全聾かどうかという点について、佐村河内氏は、三年前くらいから回復してきたと言っているようですが、医学的には、回復の可能性は非常に低いというようなことが言われています。
  そうすると、実は聞こえていたのに、障がい者手帳の交付を受けていたということになり、不正受給の問題が発生します。

7 私たちも、「障がい者が優れた作品を作って素晴らしい」という感動ストーリーに踊らされたという点について反省しないといけません。
  純粋に作品を評価するということは、非常に難しいことかもしれません。
  私たちは、「誰がどのように作ったのか」というバックのストーリーも含めて、意識的にせよ、無意識的にせよ、評価しています。
  そういった事を自覚しながら、生活していかないといけません。
  ただ、個人的には、障がい者の方が頑張っている姿をことさらクローズアップすることは、好きではありません。
  私たちが目指すのは、どのような方であっても、平等に力を発揮できる環境を作ることだと思います。
  障がい者の方をクローズアップすることは、障がい者の方が劣悪な環境に置かれ続けることを認めること、つまり、改善することを放棄しているように思われます。
  完全な平等は、不可能である、夢物語であると思われるかもしれませんが、理想を語ることを止めたくはありません。


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