2014年07月02日

第49回「佐村河内守氏について」

(注:以下は、平成26年2月25日に放送したものです。)
1 質問
  「『現代のベートーベン』と称され、『全聾の作曲家』として有名だった佐村河内守氏が、別人に作曲を依頼していた件が問題となっています。
   この件について、法律的には、どのようになるのでしょうか?」

2 法律的には、著作権や、民事の損害賠償、刑事の詐欺など色々な点が問題となります。
  まず、現時点で明らかになっている事実関係をまとめます。
  報道等によると、佐村河内氏は、「被爆2世の全聾作曲家」として「HIROSIMA」などの曲を発表し、クラシックとして異例のヒットを飛ばした。
  しかし、佐村河内氏が作曲したとされる曲は、実は、別人の大学非常勤講師である新垣氏が作っていた。その際、佐村河内氏は、曲のイメージなどを書いた「指示書」を渡していた。
  佐村河内氏は、聴覚障害があるとして障がい者手帳の交付を受けていたが、少なくとも、今は、聞こえている状態である。
  ざっと、こんなところですが、まず著作権について考えてみたいと思います。

3 今回は、まず、新垣氏が著作者であることは間違いがなさそうです。  
  では、佐村河内氏が著作者であると言えるのか。
  この点、「共同著作」というものに当たれば、佐村河内氏も著作者となります。
  しかし、今回公表されている「指示書」を渡しただけであれば、「共同著作」というのは難しいかもしれません。

4 そうすると、著作権は、新垣氏にあるのか。
  著作権というのは、譲渡が可能です。
  今回も関係者は、新垣氏から佐村河内氏に著作権が譲渡されているということを言っています。
  ゴーストライターというのは、よくあるようで、当事者間では、ゴーストライティング契約が結ばれます。
  ゴーストライティング契約においては、著作権の扱いも決められます。

5 ゴーストライターそのものは、特に問題になることは多くないと思います。
  それは、受け取る側が、「ゴーストライターはよくあることだ」ということを知っている、あるいは疑っているからです。
  しかし、今回は、「全聾の作曲家」ということを全面的に出していました。
  つまり、およそゴーストライターはあり得ず、佐村河内氏自身が作曲していると消費者に認識させるものでした。
  消費者を欺くものだったと言わざるを得ないでしょう。

6 損害賠償や詐欺ということになるか。
  欺いてお金を稼いでいたので、その可能性は十分あります。
  また、全聾かどうかという点について、佐村河内氏は、三年前くらいから回復してきたと言っているようですが、医学的には、回復の可能性は非常に低いというようなことが言われています。
  そうすると、実は聞こえていたのに、障がい者手帳の交付を受けていたということになり、不正受給の問題が発生します。

7 私たちも、「障がい者が優れた作品を作って素晴らしい」という感動ストーリーに踊らされたという点について反省しないといけません。
  純粋に作品を評価するということは、非常に難しいことかもしれません。
  私たちは、「誰がどのように作ったのか」というバックのストーリーも含めて、意識的にせよ、無意識的にせよ、評価しています。
  そういった事を自覚しながら、生活していかないといけません。
  ただ、個人的には、障がい者の方が頑張っている姿をことさらクローズアップすることは、好きではありません。
  私たちが目指すのは、どのような方であっても、平等に力を発揮できる環境を作ることだと思います。
  障がい者の方をクローズアップすることは、障がい者の方が劣悪な環境に置かれ続けることを認めること、つまり、改善することを放棄しているように思われます。
  完全な平等は、不可能である、夢物語であると思われるかもしれませんが、理想を語ることを止めたくはありません。


  著作権に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
  http://jwing-lawoffice.com
  東京都新宿区高田馬場1-28-18 和光ビル407

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posted by 弁護士羽賀裕之 at 18:09| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

2014年07月01日

第48回「憲法について」

(注:以下は、平成26年2月11日に放送したものです。)
1 質問
  「最近、憲法96条の改正や、集団的自衛権など、憲法のことが問題となっていますが、そもそも憲法とは何でしょうか?」

2 憲法とは、簡単に言えば、国家のあり方を定めた基本法です。
  ただ、この意味での憲法はどの時代にもあり、重要なのは、日本の憲法が立憲主義に基づいた憲法だということです。

3 立憲主義とは、国家の権力を制限して、国民の基本的人権を守るという思想です。
  なぜ、このような考え方に至るかというと、それは、歴史的経緯によります。
  かつては、国民の権利は、国家から与えられたものとして、国家によって制限されてきました。
  しかし、基本的人権というのは、国家から与えられたものではなく、人が人であるために、当然に有している権利です。
  そのような権利を侵害されないために、国家の権力を制限したのが、立憲主義に基づく憲法です。

4 日本の憲法というと、平和主義を定めている憲法9条が、真っ先に頭に思い浮かぶ方は、多いと思います。
  しかし、平和主義というのは、「手段」であって、「目的」ではありません。
  真っ先に思い浮かべてほしいのは、「目的」です。
  「日本の憲法の目的が何条に規定されているか?」とほぼ同じ意味の質問「日本の憲法で一番重要な条文は何ですか?」
  この質問に対し、安倍首相は、「逐条的に聞かれても・・・」などとごまかし、答えませんでした。
  日本の憲法の目的は、13条に規定されている「個人の尊重」です。
  国民それぞれが個人として尊重されなければならない。
  そのためには、平和でなければならない。つまり、個人の尊重が目的で、平和主義が手段なのです。
  このことを大前提として、憲法の各条文を考えなければいけません。
  憲法改正を声高に掲げている首相が、このことを理解していない。これが現状です。

5 憲法の勉強というと難しそうな気がすると思いますが、今は、憲法に関する本がたくさん出ていますし、日弁連もホームページで「憲法って、何だろう?」と題する絵本を公開して、分かりやすく説明しています。
  また、是非、芦部信喜先生の「憲法」という本も読んでいただきたいです。
  芦部先生は、憲法学の大家であり、憲法を学ぶ上では、絶対に避けて通れない人です。芦部先生の本を読まずして、「憲法を学んだ」とは絶対に言えません。
  ちなみに、安倍首相は、芦部先生を知りませんでした。
  多くの方が憲法について、しっかり学び、権力の監視を不断に続けることを望みます。

  
  J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)は、相談者の方、依頼者の方、個人個人を尊重し、人権が踏みにじられないよう全力を尽くします。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 19:44| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

第47回「会社と個人の責任について」

1 質問
  「私は、映画製作会社に3年勤めています。
   撮影のためのスタッフ『カメラマンのクルー1組』で、いつもお願いしているクルーが、他の仕事と重なったため無理だと言われました。
   社長と相談し、どこかに知り合いがいないかと言われたので、私が知り合いにお願いし、社長とも顔合わせをし、撮影を無事終了させました。
   ところが、終了数日後、会社が倒産し社長が行方不明になりました。
   すると、紹介した知り合いから、ギャラ10名分貴方が払ってくれ、と言われました。
   このような場合、どうすればいいのでしょうか?」

2 会社に対する債権回収が不能であることを前提にお話しします。
  まず、結論から言うと、質問者の方に支払義務はありません。
  会社と質問者の方は、別人格であり、会社に対する債務を質問者の方個人が負うことはありません。
  あまりにしつこい場合だと、恐喝罪にあたることもありますので、その場合は、警察か弁護士にご相談ください。

3 個人が責任を負う場合について。
  「取締役の第三者責任」というのがあります。
  これは、取締役が任務を怠ったことによって、第三者に損害を与えた場合、取締役がその損害を賠償しなければならないというものです。
  たとえば、取締役が放漫経営を行ったことによって、会社が倒産した場合、取締役個人が責任を負わなければいけなくなることがあります。
  今回の質問者の方は、平社員ということなので、この規定によって責任を負うことはありません。

4 会社の形態によっては、社員個人が責任を負うことがあります。
  ここでいう「社員」とは、第44回でもお話ししたように、「会社に対して持分を有している人」つまり出資者を指します。
  株式会社の場合は、社員である株主は、出資した分についてのみ責任を負い、それ以上に会社債務について責任を負いません。これを「有限責任」といいます。
  これに対して、合名会社、合資会社と呼ばれる会社には、「無限責任」を負う社員がいます。
  「無限責任」とは、会社債務につき、出資した分だけではなく個人財産についても責任を負うことをいいます。
  この「無限責任」を負う社員は、会社債務につき、個人も責任を負います。

5 他には、「法人格否認の法理」というのがあります。
  「法人格否認の法理」とは、会社が形骸化していて、会社と個人が同一視できるような場合や、違法・不当な目的で会社形態にしている場合などに、会社の背後にいる個人に責任追及しようとする法理です。
  たとえば、会社といっても個人で経営していて、会社の財産と個人の財産が全く区別できなくなっていて、会社法上の手続が全然なされていないような場合は、「法人格否認の法理」によって、個人に責任追及することができます。
  以上、会社と個人の責任についてお話ししましたが、原則は、会社の債務について、個人は責任を負わないということです。

  
  会社を巡るトラブルについては、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)までご相談を。
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posted by 弁護士羽賀裕之 at 19:16| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする

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