1 質問
「『現代のベートーベン』と称され、『全聾の作曲家』として有名だった佐村河内守氏が、別人に作曲を依頼していた件が問題となっています。
この件について、法律的には、どのようになるのでしょうか?」
2 法律的には、著作権や、民事の損害賠償、刑事の詐欺など色々な点が問題となります。
まず、現時点で明らかになっている事実関係をまとめます。
報道等によると、佐村河内氏は、「被爆2世の全聾作曲家」として「HIROSIMA」などの曲を発表し、クラシックとして異例のヒットを飛ばした。
しかし、佐村河内氏が作曲したとされる曲は、実は、別人の大学非常勤講師である新垣氏が作っていた。その際、佐村河内氏は、曲のイメージなどを書いた「指示書」を渡していた。
佐村河内氏は、聴覚障害があるとして障がい者手帳の交付を受けていたが、少なくとも、今は、聞こえている状態である。
ざっと、こんなところですが、まず著作権について考えてみたいと思います。
3 今回は、まず、新垣氏が著作者であることは間違いがなさそうです。
では、佐村河内氏が著作者であると言えるのか。
この点、「共同著作」というものに当たれば、佐村河内氏も著作者となります。
しかし、今回公表されている「指示書」を渡しただけであれば、「共同著作」というのは難しいかもしれません。
4 そうすると、著作権は、新垣氏にあるのか。
著作権というのは、譲渡が可能です。
今回も関係者は、新垣氏から佐村河内氏に著作権が譲渡されているということを言っています。
ゴーストライターというのは、よくあるようで、当事者間では、ゴーストライティング契約が結ばれます。
ゴーストライティング契約においては、著作権の扱いも決められます。
5 ゴーストライターそのものは、特に問題になることは多くないと思います。
それは、受け取る側が、「ゴーストライターはよくあることだ」ということを知っている、あるいは疑っているからです。
しかし、今回は、「全聾の作曲家」ということを全面的に出していました。
つまり、およそゴーストライターはあり得ず、佐村河内氏自身が作曲していると消費者に認識させるものでした。
消費者を欺くものだったと言わざるを得ないでしょう。
6 損害賠償や詐欺ということになるか。
欺いてお金を稼いでいたので、その可能性は十分あります。
また、全聾かどうかという点について、佐村河内氏は、三年前くらいから回復してきたと言っているようですが、医学的には、回復の可能性は非常に低いというようなことが言われています。
そうすると、実は聞こえていたのに、障がい者手帳の交付を受けていたということになり、不正受給の問題が発生します。
7 私たちも、「障がい者が優れた作品を作って素晴らしい」という感動ストーリーに踊らされたという点について反省しないといけません。
純粋に作品を評価するということは、非常に難しいことかもしれません。
私たちは、「誰がどのように作ったのか」というバックのストーリーも含めて、意識的にせよ、無意識的にせよ、評価しています。
そういった事を自覚しながら、生活していかないといけません。
ただ、個人的には、障がい者の方が頑張っている姿をことさらクローズアップすることは、好きではありません。
私たちが目指すのは、どのような方であっても、平等に力を発揮できる環境を作ることだと思います。
障がい者の方をクローズアップすることは、障がい者の方が劣悪な環境に置かれ続けることを認めること、つまり、改善することを放棄しているように思われます。
完全な平等は、不可能である、夢物語であると思われるかもしれませんが、理想を語ることを止めたくはありません。
著作権に関するご相談は、J.ウィング総合法律事務所(弁護士羽賀裕之)まで。
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